■平成12年度の研究内容
 シギやチドリ等の鳥類は、河口や干潟における食物連鎖の
上位に位置し、河口や干潟の底生生物を餌として取り込み無
機化する等、有機物を系外に運び出す役割を担っている。ま
た、食物連鎖の上位種の存在は、生態系のバランスが保たれ
ていることのバロメーターであるとも言われている。
 本研究においては、紀の川周辺の河口や干潟における鳥類
の分布や生態を調査することによって、河口や干潟の生態系
を評価する上での基礎的なデータを得ることを目的とする。
 紀の川周辺の干潟や砂浜等での鳥類生息状況、生理・生態
について把握するため、文献調査やヒアリング調査、鳥類の
種、個体数等の鳥類相、採餌行動、夜間の活動についての現
地調査を実施した。
調査位置図(平成12,13年度)
 文献調査、ヒアリング調査により、紀の川周辺の鳥類相を調査した。その結果、紀の川周辺では、干潟を利用する鳥類は、過去、種類数、個体数とも多くはないことが分かった。これは、現地調結果と同様の傾向を示した。
 干潟を利用する鳥類として、春期・秋期のシギ・チドリ類、冬期のカモ類が干潟の底生生物を利用するなど、干潟の生態系を考える上で重要と考えられた。
 また、現地調査により紀の川周辺の干潟では、鳥類の種類、個体数とも多くはないものの、和歌川干潟で最も鳥類が観察できた。鳥類の個体数が少ない原因の一つとして、和歌川干潟では、満潮時に鳥類の休息場所としての利用が難しいことが考えられた。また、干潮時に現れる干潟を利用して採餌を行っているのは、サギ類、シギ類で、魚類、小型甲殻類を主食とする鳥類が多く観察された。
 採餌行動等の調査により、干潟に関わる鳥類の生息への影響は、時期や潮汐、利用できる餌などにより多様に変化していると考えられ、今後、干潟のベントス調査、鳥類の採餌調査を併せて解析することにより、干潟の食物連鎖構造を把握することが可能であると考えられる。
調査地で観察された鳥類
(2000年 5月、8月、9月、2001年 2月)
紀の川
干潟
市堀川
貯木場
和歌山
南港
貯木場
和歌川
干潟
 カワウ      
 ウミウ         
 ダイサギ      
 チュウサギ      
 コサギ  
 アオサギ
 マガモ    
 カルガモ      
 オカヨシガモ    
 ヒドリガモ      
 オナガガモ      
 ミサゴ      
 トビ      
 コチドリ      
 ダイセン      
 キョウジョシギ      
 トウネン    
 ハマシギ      
 アオアシシギ      
 キアシシギ      
 イソシギ  
 ソリハシシギ      
 チュウシャクシギ    
 ユリカモメ    
 セグロカモメ    
 オオセグロカモメ      
 カモメ    
 ウミネコ      
 ハクセキレイ      
 種 数  3  3  14 24
■平成13年度の研究内容
 シギやチドリ等の鳥類は、河口や干潟における食物連鎖の上位に位置し、河口や干潟の底生生物を餌として取り込み無機化する等、有機物を系外に運び出す役割を担っている。また、食物連鎖の上位種の存在は、生態系のバランスが保たれていることのバロメーターであるとも言われている。
 本研究においては、紀の川周辺の河口や干潟における鳥類の分布や生態を調査することによって、河口や干潟の生態系を評価する上での基礎的なデータを得ることを目的とする。
 紀の川周辺の干潟や砂浜等での鳥類生息状況、生理・生態について把握するため、鳥類の種、個体数等の鳥類相調査、日周行動調査を実施した。(調査位置は平成12年度と同じ)
 加えて、干潟を利用する鳥類の胃内容物調査を実施した(但し、紀の川周辺では十分な資料が採集困難と考えられたため、千葉県小櫃川河口干潟の試料で代替)。
(1)紀の川周辺の鳥類相や干潟を利用している
   鳥類の採餌行動、日周行動について

 
夏期から春期の計6日間の鳥類相調査の結果、紀の川周辺の
7地点で確認された鳥類は7目12科30種であった。そのうち、
最も種数の多かった地点は、平成12年度と同様に和歌川干潟
で18種であった。また、最も個体数が多い地点は和歌山南港
貯木場であった。渡りの区分では、留鳥が種数・個体数ともに
全体の5割以上を占めた。
 また、和歌川河口干潟の現地調査(鳥類相調査、採餌行動調
査、日周行動調査の3調査)で確認された鳥類相は7目12科
31種であり、確認された総個体数の上位5種は@ユリカモメ、
Aオナガガモ、Bマガモ、Cアオサギ、Dカルガモであった。
 また、採餌行動については、目視観察やビデオ撮影により、
採餌回数や採餌間隔、採餌種等を記録し、その解析を行った。
 これらの調査結果から、和歌川河口干潟における主要な鳥類
と確認した餌種との関係は下図のとおり整理できた。
和歌川河口干潟の主要な構成種
図−和歌川河口干潟における主要な鳥類と確認した餌種の関係
 また、和歌川河口干潟を利用する鳥類について、日間における滞在場所や行動、個体数等について目視観察を行い、干潟を利用する鳥類の日周行動を調査した。その結果、アオサギ・ダイサギにおいては干潟が出現する直前から、干潟が消失した直後まで採餌を行い、満潮期も干潟内に留まり休息するなどしており、採餌場所・休息場所としての利用がみられたが、コサギは採餌場所としての利用のみであった。
 これら平成13年度の調査結果より、干潟生態系外への有機物の持ち出しを行っている種として、アオサギなどのサギ類、カモ類、チュウシャクシギが注目された。なかでも、干潟内の生態系から陸域の生態系を結ぶアオサギは、干潟の重要な構成者と考えられる。今後は、和歌川河口干潟において、餌として利用される生物がどれだけの比率で利用されているかを正確に求め、各鳥類が時間あたりにどの程度の重量の餌を摂餌しているか推測し、生物間の結びつきの強さについて検討していく必要があるものと考えられる。

(2)干潟を利用する鳥類の胃内容物調査

 目視調査では同定することができない食餌種について、実際に鳥類の胃内容物を吐き出させることにより確認し、食餌種の資料を得るため本調査を行った。本調査においては紀の川周辺では、十分な資料採取が困難であると考えられたため、調査サンプルの確保を主眼に置き、鳥類捕獲の実績の多い千葉県小櫃川河口干潟において代替し、調査を行った。対象種はシギ・チドリ類とした。なお、小櫃川河口干潟周辺で確認されている底生動物の種のうち約3割が和歌川河口干潟との共通種である。
 小櫃川河口干潟において行われた鳥類の捕獲調査の結果、14種のシギ・チドリ類の胃内容物に関するデータを得ることができた。これらの種のうち、和歌川河口干潟でも確認されている共通種はシロチドリ、メダイチドリ、キョウジョシギ、トウネン、ハマシギ、キアシシギ、イソシギ、ソリハシシギ、チュウシャクシギの9種である。出現した胃内容物の生物を大別すると、昆虫類、マキガイ類、甲殻類、多毛類が認められた。但し、胃内容物の分析においても、種のランクまで同定できたものはわずかであった。
 本調査の課題としては、さらに詳細に種を同定するためには、現地で同時期に底生生物や周辺の昆虫の採集を行って生物相を把握するとともに、基準となる標本を作成することも重要である。
■平成14年度の研究内容
 シギやチドリ等の鳥類は、河口や干潟における食物連鎖の上位に位置し、河口や干潟の底生生物を餌として取り込み無機化する等、有機物を系外に運び出す役割を担っている。また、食物連鎖の上位種の存在は、生態系のバランスが保たれていることのバロメーターであるとも言われている。
 本研究においては、紀の川周辺の河口や干潟における鳥類の分布や生態を調査することによって、河口や干潟の生態系を評価する上での基礎的なデータを得ることを目的とする。
引き続き紀の川周辺の鳥類相を把握するとともに、過去2年間の調査結果を踏まえ、和歌川河口干潟において重要な役割を占めると考えられるサギ類について調査を行った。その調査結果を含み、平成12年度からの総括を行った。
(1)紀の川周辺の鳥類相調査(平成14年度)

平成14年度は夏季、秋季、冬季と3季計4日間に渡る鳥類相調査を行った結果、紀の川周辺の8地点で確認された鳥類は25科53種であり、種数・個体数の規模が小さいながらも様々な生息環境に鳥類が生息していた。また、水辺環境に生息する種類だけでなく、スズメ、ハシブトガラスなど都市型の鳥類が多く確認されたことから都市の影響を受けている様子が示唆され、逆に後背湿地やヨシ原などの陸水環境が少なかったことも示している。
 地点別にみると、最も種数の多かった地点は、平成12〜13年度と同様に和歌川干潟で31種であった。また、最も個体数が多い地点は片男波砂浜であった。
 貴重種については、12種類が確認された。
 特筆すべき種としては、冬季に和歌山南港貯木場の丸太上でハマシギ9羽が休息している様子が確認された。これにより、紀の川周辺に存在していると考えられる採餌場所は越冬地として重要な場所である可能性が示された。
紀の川周辺の主要な構成種(平成14年度)
(2)紀の川周辺における干潟を利用する
   鳥類の採餌行動調査

 夏季、秋季、冬季と3季計18日間に渡り、観察とビデオ撮影により、鳥類の採餌方法や採餌場所を記録した。
 主要な科ごとに個体数変動を調査した結果、冬季に個体数が増加する傾向が見られた。また、科別でみると、カモメ科及びカモ科の冬季の増加が顕著である。サギ科及びウ科(カワウ)は年間の個体数がほぼ安定していた。ベントス類を餌とするシギ科は、10羽以下での確認が多かった。

 また、和歌川干潟を利用する鳥類は、通年採餌場所として利用する(Type1)、シギ・チドリ類などの春季、秋季に渡りの中継地として利用する(Type2)、カモ類など越冬時の採餌・塒場所として利用する(Type3)の3通りの利用様式があると考えられる。Type1の代表種としてアオサギ及びカワウ、Type2としてシギ・チドリ類、Type3としてマガモ及びカルガモが挙げられる。個体数として最も多く確認されるユリカモメは、休息場所としての利用が多く、また餌付けに依存している個体も多く、必ずしも干潟の餌動物に依存的ではない。
主要な科の個体数変動
アオサギ カワウ
 採餌は、汀線を移動しながらつまみ取るように行う採餌方法と、澪筋などに待ち伏せし、嘴を瞬間的に伸ばして採餌する方法とがみられた。
主に魚類(エイ類、ボラ類、ハゼ類、アジ類、クサフグ、その他)、甲殻類を捕食。
 潮汐の干潟に関係なく、水路部分で採餌を行う。
 潜水を繰り返し、魚類を採餌する。
 魚類(ボラ類、アジ類、その他)を捕食。
コサギ ダイサギ
 歩き回りながら盛んに採餌する。小型甲殻類の捕食を確認している。
 かなり長時間の休息を取ることもあり、採餌しているときと休息しているときの格差が非常に大きい。
 和歌川河口干潟内では、水底に足が立つ時間帯のみの滞在である。
 待ち伏せ型の採餌方法を主にとる。10cmほどのハゼ類の捕食を確認した。
カモ類(マガモ、コガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、カルガモ) ミサゴ
 干潮時、休眠している場合が多い。主に、アオサを捕食していると考えられる。
 ボラを主に捕食している。ボラは、海中の上層にいることから、上空から捕獲し易いと考えられる。捕獲サイズは約30cm程度であった。
 砂泥中に生息するベントス類も捕食していると思われる観察例もあった。
 
イソシギ キアシシギ
 小型の甲殻類、砂泥の中の生き物を捕食していた。  チゴガニ、ヤマトオサガニなどの甲殻類を捕食していた。
チュウシャクシギ トビ
 コメツキガニ、チゴガニなどの甲殻類を捕食していた。
 主に、魚の死骸などを採食していた。
 また、干潟に降りて砂泥中からベントス類(不明)を引き出して食べるのを確認している。
ハシボソガラス  
 カニ類、貝類も採餌していた。
 
和歌川河口干潟で確認された鳥類の採餌行動
(3)総括
平成12〜14年度の3年間の結果をとりまとめた。

a.紀の川周辺の鳥類相
 平成12〜14年度の鳥類相調査において、紀の川周辺では計26科63種が確認された。
 地域別にみると、和歌川干潟において41種類と最も多く、博物館前干潟が18種類と最も少なかった。
 種別にみると、ウミネコやユリカモメ等のカモメ類の個体数が圧倒的に多かった。
 貴重な種としては、鳥類相調査でチュウサギ、ミサゴ、ハヤブサ等、摂餌調査でズグロカモメ、ホウロクシギ等が確認されて
 いる。
 今後については、近畿地区での生息場所の減少から相対的に残存している干潟の重要性は増していくと考えられる。

b.和歌川干潟の鳥類相
 和歌川河口干潟では、ミサゴ・アオサギ・カワウなどの留鳥が干潟生態系の頂点となっており、特にアオサギは周辺2ケ所に
 営巣地を持ち行動圏も和歌川干潟に依存している。
 ユリカモメは個体数は多いが、1日のうちでも個体数が非常に大きく変動し、採餌行動がほとんど見られない。
 また、和歌浦河口干潟は、渡り鳥の利用の観点からは、種類の少なさ、個体数の少なさ、滞在時間の短さが特徴として挙げら
 れた。